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アップルストアのブランド戦略 [空間デザインによるブランディング]

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Apple store/アップルストアは、アップルが世界の主要都市に展開しているアップル直営の店舗で、国内では銀座をはじめとして主要都市に展開しています。アップルストアの名が示す通りマーケティング上は販売拠点の役割を果たしていますが、店舗の機能やデザインを見ていくと、一般的な小売店とは根本的に異なるコンセプトのもとにつくられていることがわかります。今回はアップルストアの機能とデザインをひとつひとつ見ていくことで、アップルがこの店舗で目指ざすものを探ってみようと思います。

1.外観
アルミのパネルとガラスで覆われたシンプルな外観は、アップルの製品が持つ品質感と連動し、人目を引く独自の外観となっています。外観のデザインによって、独自のブランドの世界観を見る人に印象づけています。

2.ショーウィンドウ
その時々のキャンペーンを、インパクトのあるビジュアルや展示で訴求し、通りを歩く人々の目を引きつけています。店頭からは、大きなガラス面と最小限に納められたサッシュによって店内の様子をよくうかがうことができ、店舗の前を通る人を中に誘引します。アメリカのある調査会社の報告によると、アップルストアから7.5m以内を歩く人の27%は、店舗に足を踏み入れるというデータがあります。

3.1階売り場
道路に面した一階は、広々とした店内に、新製品を始めとしてアップルの全製品が美しく展示され、全て操作ができるようになっています。これには、アップルに少しでも興味がある人に、まずは製品を体験してもらいたいという意図があるほか、購入を検討しているユーザーに購買意思の決定を促すという狙いがあります。さらに、自分の部屋でアップルの製品を使うことをイメージしてもらえるように、製品の展示台は、あえて木製のダイニングテーブルのようなデザインとなっています。アップルはこれらを戦略的なMDとしてBuying Experience(購買体験)と呼んでいます。

4.Genius Bar
アップルストアにはジーニアス・バーと呼ばれる対面式のサポート窓口があります。一見バーカウンターのような相談カウンターには、特別なトレーニングを受けた専任のスタッフが配置されています。カジュアルなTシャツのユニフォームを着たスタッフによる明るい接客は、ブランドのもつカジュアルな側面を伝えており、これは「人」をブランドの象徴とするマネジメント戦略とも言えます。日本ではバーカウンターは海外ほどカジュアルなイメージはありませんが、このカウンターに限らず、デザインや機能をあえてローカライズしない、ということもアップルのブランドがもつ特徴のひとつです。

5.Theater
アップルストアにはTheaterと呼ばれる、大画面スクリーンと客席を備えた映画館のようなフロアがあります。ここでは製品のデモンストレーションや、ユーザーのミーティングが行われます。アップルの製品への理解を深めたり、同じ目的を持ったユーザーグループを形成するなど、ブランドロイヤルティ獲得のための様々なコンテンツを生み出すハードウェアの仕掛けとなっています。

6.コンテンツ
アップルストアでは、キャンペーンと連動したイベントや、無料のライブイベント、ワークショップが定期的に開催されています。また、建築計画にはそのためのスペースがあらかじめ盛込まれています。

細かいところを見ていくとまだまだたくさん書きたいことがありますが、これらを見ただけでもアップルストアが単なる小売店の枠でくくりきれないことがよくわかると思います。アップルストアの店舗の考え方は、店舗における直接的な売り上げを目標とするよりもむしろ、店舗の生み出す価値によって、ブランドとユーザーをどのようにつないでいくかというところにフォーカスされています。そのことが結果として、ブランドに利益をもたらすと言う考え方に基づき、店舗展開をブランドおよびマーケティング戦略の一貫として位置づけたうえで、デザインや機能、MDが決定されています。こうして見るとアップルストアは、単なる販売拡大を目的とした小売店ではなく、ブランドを体験する場としてのショールームを兼ねた店舗であり、その展開は店舗によるブランド戦略であると言うことができます。

ブランディングから見た空間デザインのパッケージング [空間デザインによるブランディング]

今回はブランドの視点から、空間デザインのパッケージ化について考察してみたいと思います。ここで言うデザインのパッケージ化とは、飲食店でも物販店などの多店舗展開を前提とした業態で、空間を構成する要素(素材、什器、家具、照明、サインなど)の規定を作り、全て同じ見えがかりになるようにしたデザインのこととします。

スターバックスの回でも書きましたが、デザインのパッケージ化のメリットとしては、そのブランドの提供する商品やサービスをユーザーに対して担保できると言う点があります。つまりこれは、どの店舗に行ってもこのブランドなら大丈夫、買って安心、ここまでの価値は得られる、という保証であり、またその保証をデザインによって体現しているともいえます。また、運営側のメリットとしては、デザインを管理しやすくすることで、提供価値の安定化やスケールメリットによるコスト削減といった効果もあります。

このように、デザインをパッケージ化することは、ブランドとユーザー双方にメリットがあり、飲食や物販など多くの多店舗展開ブランドで採用されていますが、あえてデメリットを上げるとすれば、全て同じデザインで店舗を増やしてくことで、目にすることも多くなり、いずれはユーザーに飽きられてしまう、という点があります。そのため、商業店舗のデザインを考える場合、初期投資の回収や、店舗の老朽化、流行の変化などを考慮し、通常5年という期間をひとつの目安にします。とくにアパレルの世界は流行がめまぐるしく変わることもあり、まだ店舗がきれいでも、改装効果を見越してリニューアルをしたりします。ただ、このようなやり方は経済が上向いている時は良いのかもしれませんが、エコやサステイナブルデザインの観点から言うとあまり合理的であるとは言えません。

また、もうひとつは景観上の問題です。これは特に国土の狭い日本において言えることですが、どこへ行っても同じ店舗があることで、その地域独自の風景が失われてしまうという点です。これは人によって感じ方はまちまちだと思いますが、最近は景観に対する意識の高まりや、景観条例の施行により、運営主体もサインの色使いなどに配慮するようになってきました。しかし、そうした表層的な部分も大事ですが、もっと本質的な部分での地域との共生ということを、ブランドデザインにおいても考える時期に来ているのではないかと思います。

空間の体験によるブランディング [空間デザインによるブランディング]

今回はブランドの情緒的価値について、空間デザインの視点からもう少し掘り下げてみます。一般的に情緒的なブランディングとは、言語に頼らずに、主体が意図する印象をターゲットに抱かせることで、独自のブランドイメージをつくっていくことを目標とします。広告やWEBであれば、フォトイメージやグラフィックデザイン、映像などに、一貫したトーンや質、動きを与えることで可能になるのは想像できますが、空間はどうでしょうか。

もちろん空間も、同じように素材や色使いで雰囲気をつくることはできます。しかし、空間がその他の媒体と大きく違うところは、それが3次元であり、ユーザーはその中で、視覚を含めた感覚的な「体験」をすることにより、印象をつくりあげているという点です。そこでは、素材や色のみならず、広さや天井高、照明の雰囲気や外光の採り入れ方など様々な要素が相互に影響し、空間の雰囲気、空気感をつくりあげています。さらにその中で、ユーザーは移動するため、視点移動での印象の変化という要素も加わってきます。

わかりやすくするために、ゴシックの教会を例にとってみます。ゴシックの教会では、高い天井による上昇性の強い空間は見るものを圧倒し、同時に天上の世界を想像させます。その視点の先にはステンドグラスによる神の世界が光となってふりそそぎ、パイプオルガンの音色と相まって、荘厳な印象を与えています。これらは全て、神への畏敬の念という感情を引き起こすために、意図的につくられたものです。少々大げさな例になってしまいましたが、空間の形態や、容積、素材、色彩、光などの操作によって、意図した印象を作り上げる、という点では共通しています。

以上のことから、空間デザインによる情緒的なブランディングとは、空間を構成するあらゆる要素の複合によって、ひとつの全体的な印象を、ユーザーの体験を通してつくり上げることだと言えます。

現在ではCG技術の向上により、ウォークスルーなどの映像で、空間を事前に仮想的に体験ができるようになりましたが、実際の空間では、人は自分の意図しないところで無意識にあらゆる感覚を働かせ、印象として感じ取っていると考えられます。仮想空間の体験の質が、実際の空間の体験の質と決定的に違うと感じるのもそのためでしょう。空間によってできるだけ正確に意図した印象を作り出すためにはやはり、人間の想像力に追うところが大きいと感じます。

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