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スターバックスの空間ブランディング [外食産業]

今回はスターバックスの空間デザインとブランディングについて。スターバックスvsマクドナルドのプレミアムコーヒー戦争が話題の昨今ですが、ここではひとまずスターバックスの店舗について考察してみたいと思います。前回のマクドナルドと比較すると、コーヒーチェーンであるスターバックスの空間デザインの考え方は対照的です。

マクドナルドは、ファストフードという業態から、客単価を下げ、席数と回転数を増やすという店作りをしていますが、スターバックスは客席数を抑えてゆったりとした空間をつくっています。デザインを見ると、店内のトーンは、彩度を落とした色彩や黒をベースに、天然木や磁器質タイル、アイアンなど比較的リッチな素材を使用し、照明の照度を落として、落ち着いた居心地の良い雰囲気としています。壁面には、自社のアーティストによる素朴なアートが飾られ店内を演出しています。このようなお店のつくりは、ファストフードのように価格の安さや手軽さ、便利さという価値を提供するのではなく、おいしいコーヒーをゆったりとした空間で落ち着いて楽しめる空間を提供する、というブランドの考えに基づています。

今でこそ店舗数も増えなじんだ感のあるスターバックス。日本進出当初は、その目新しさもあってずいぶん話題になりましたが、ここまで普及したのは単純に目新しさだけではなく、一貫したブランドコンセプトとマネジメントの徹底によるところが大きいと考えられます。

スターバックスのような世界規模のチェーンでは、商品やサービスの品質を維持するために、通常ガイドラインに沿った合理的なシステムを採用します。空間デザインにおいては、テナントとして入る空間の広さや形状に影響されずに一貫した雰囲気をつくるための工夫が見て取れます。例えば店内の雰囲気の決め手となるメニューボードやカウンター、家具、ペンダントなどの演出照明や物販什器は、どのお店もオリジナルで同じデザインのものを採用しています(おそらくほとんどが支給品であると思われます。それ以外にも床や壁の素材や色彩、木目の種類、そして店頭の印象を決定付けるサインなど、全てにおいてデザイン上の細かい規定があると思われます。

ところでユーザーの視点からみると、そこまで一貫したデザインとしなければいけないのか、お店によって全く違う雰囲気でもそれはそれで楽しくていいんじゃないか、という疑問がわきます。もちろんそのような考え方もありますし、店舗数が少なければ、むしろそのほうが良い場合もあると思います。しかしある程度の規模のブランドデザインでは、一貫した価値を提供することで、ブランドが品質の保証となるという考え方をします。つまり一貫性によって利用者は、どのお店にいっても一定のベネフィットを得ることが保証されます。さらにスターバックスの場合、商品やサービス、空間デザインに、他とは違うオリジナリティを出すことで独自性を強め、「あのコーヒーをあの空間で飲みたい」と思わせるような、ブランドロイヤルティを形成することを目標にしています。

しかし、スターバックスの登場以来、国内でもおいしいエスプレッソコーヒーを出す店舗が増え、メニューのオリジナリティは、進出当初より薄れた感があります。また不況により、高価格なスターバックスのコーヒーを敬遠する利用者の動向もあります。本国アメリカでは、競合ファストフードやドーナツショップが低価格のプレミアムコーヒーを投入するなど、打倒スターバックス攻勢が過熱しており、日本でもマクドナルドが、新開発のエスプレッソマシンの導入を始めるなど周囲の状況は厳しくなりつつあります。スターバックスは今、ブランドとして難しい判断を迫られています。

マクドナルドの店舗ブランディング [外食産業]

今回はブランドの視点から見たマクドナルドの店舗デザインについて。景気後退の影響により、外食産業全体の業績が落ち込んでいる中、マクドナルドが好調です。低価格のメニューや、クオーターパウンダーなどの新製品の投入、無料コーヒーキャンペーンなどメニューを中心とした戦略が功を奏していることが取り上げられますが、好業績を支える要因は、それだけではありません。

店舗のリニューアルもそのひとつです。ファストフードのお店というと、ちょっとした待ち合わせや、若い人が暇つぶしに使うお店で、薄汚れてどこか落ち着かない店内というイメージがありましたが、最近リニューアルされたマクドナルドの店舗は、きれいで良いデザインのものが増えたと感じます。デザインはどの店も異なりますが「ラウンジ」というテーマで共通しています。このテーマには、落ち着いた店内をつくるということだけではなく、30代以上のファストフードから離れてしまった世代の人たちをもう一度呼び戻すという狙いがあると思われます。コーヒーをおいしくしてを無料で提供するのも、そうした人たちにまず店舗に来てもらうことが目的で、その受け皿として店舗の質を向上させるという考えがあると思われます。

もちろん、ファストフードという業態が前提なので、あまり落ち着きすぎたり、席をゆったりさせすぎて回転数や客席数が落ちることは避けなければならないため、デザインや設備の工夫でうまくカバーすることで、快適に利用できるような店内になっています。例えば、トレンドを程よくとりいれたデザインや素材使い、間接照明やペンダントなどの照明演出、カウンターに設置されたノートPC用のコンセントなど、 細かいところを見ていくと、さまざまな工夫がされていることがわかります。オペレーション面で見ると、ハイチェアは必ず床に固定され、椅子が倒れて子供がケガをすることを防止すると同時に、掃除のしやすさなどメンテナンス性を良くしています。安全性はともかくメンテナンス性は、一見お店側の都合ともとれますが、掃除をしやすくすることで常に清潔な店内で利用してもらうということも、飲食店では重要なポイントです。また壁面に、多国籍の人物をテーマにしたスーパーグラフィックがあるお店も多く、これには、世界中の人たちに自分たちの商品を届けるというブランドメッセージがこめられていると思われます。

普段利用する時にこうしたことを意識することはほとんどありませんが、このような工夫は利用者の無意識に働きかけ、店舗の印象を決めていると考えられます。こうした積み重ねがブランドイメージとして蓄積され、ブランドの価値を決めていくということが、店舗ブランディングの考え方のひとつです。
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